心に残るお客様

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「私もこのまま帰ります。」
その言葉でその場の雰囲気が一変しました。今までの和やかな空気は一瞬にして吹き飛び、ピンッと張りつめた空気が流れました。私はなんと言葉をかけてよいものやら、状況が理解できないままに、しばらく固まってしまいました。

その日はいつもサロンに通っていただいているお客様が、母の日のプレゼントとしてお母さまを連れていらしたのでした。が、そのお客様が先に支払いを済ませて帰ろうとすると、お母さまが急に「私もそのまま帰る。」と言い出し、頑なに黙り込んでしまったのです。
突然のことで、どう対応したものか、そもそもなぜそのまま帰ろうとしているのか?私の頭の中は混乱して、様々な考えがグルグルと巡り始めました。

エステは初めて、というお母さまにとっての価値観に照らしてみれば、もしかしたら支払われた金額が予想よりも高額に思えたのかもしれません。そしてそれを娘に負担させることが忍びないという気持ちになったのではないか、と、私には推測されたのですが、それを言葉にするのもためらわれました。

はっきりとした形のないものに対する価値をどう受け取るかは人それぞれですし、60年近くを生きてきて形成されたお母さまの価値観を変えることなど、そう簡単なことではない、とも思われたのです。

なので、お母さまの気持ちを考えると、そのまま帰っていただいても構わないとも思いましたが、一方で、せっかくのお母さまへの感謝の気持ちを表す機会が台無しになってしまう娘の側の立場に立つと、それも切ないなあ、と思いました。
というのも、以前、そのお客様がそれまでの親子関係についてや、結婚が決まったことでの気持ちの変化などを、チラッとお話していたことを思い出したからです。きっとこの”母の日のプレゼント”には、いつにも増して特別な意味があるに違いない、と思われたのでした。

普段ならこちらから無理に勧めたところで、その価値観を変えることは難しいと思っているので、めったに言わないセリフなのですが、その時ばかりは私も必死で
「だまされたと思って、体験されてみてはいかがですか?」
などと、まあ陳腐な言葉しか思いつきませんでしたが(汗)、お母さまの説得を試みたのでした。

長くなってしまいました。この続きはまた次回にさせていただきますね。
アトリエSOPHIA  村田